2016/07/03

栃木<参院選>放射線の不安は今も 原発争点化望む県北の有権者 

2016年7月3日 毎日新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/list/201607/CK2016070302000156.html 

東日本大震災から五年三カ月余り。東京電力福島第一原発事故による放射能汚染を乗り越えてきた県北部の住民は、今も残る放射線の影響に悩む。参院選の投開票を一週間後に控え、生活を一変させた原発をめぐる議論が盛り上がりに欠けていることに、有権者からは不満の声が上がる。 (中川耕平)

■続く影響
「いつかまた高い数値が出るんじゃないかって、検査のたびに不安になる」

那須町で畜産農家を営む男性(69)が明かす。この男性の自宅裏の牧草地は放射能によって汚染された。

事故から二カ月後の二〇一一年五月、牧草の収穫に合わせて始まった放射性物質の濃度を測る県の検査。基準値の三十倍となる一キロ当たり三〇〇〇ベクレルの高い数値が検出され、牛にやる飼料は「全滅した」。土壌の除染を繰り返したことで翌年からは基準値以下となったが、今でも検査は行われ、不安はぬぐえない。

男性は「取り返しのつかない被害を受けているのに、なぜ原発を再稼働するのか」と、現政権の姿勢に疑問を投げ掛ける。今回の選挙戦では経済や憲法の議論が前面に出て、原発の問題は忘れ去られてしまったように映る。

「あれだけの事故が起きたのに、政府はまだ安全だと言う。原発に頼らないエネルギー政策に本腰を入れてほしい」と注文する。
牛舎で飼育されている牛。畜産農家の男性は
放射能汚染の不安と今でも闘っている=那須町で

■県境の壁
県北部の被災者は福島との県境を挟んで異なる支援の差にも苦しんできた。その一つが、福島県で増加が懸念されている子どもの甲状腺がんの検査だ。

福島県境にほど近い場所に住む那須町の四十代の女性は「山の向こう側とこちら側で何が違うの。被災したのは東北だけじゃない」と憤る。長男(9つ)がいるが、外で遊ばすことにはためらいがあるという。

福島県では、事故当時十八歳以下だった約三十八万人を対象に、国費で放射性物質がたまりやすい甲状腺の定期検査を続けている。一方、栃木県でも同様の検査実施を求める声があるが、実現していない。

那須塩原市の住民団体「那須塩原放射能から子どもを守る会」の手塚真子代表(46)は「県境で放射能が消えるわけではない」と断じる。これまでに民間での検査を三回実施し、延べ三百人以上が受診。母子の不安と向き合ってきた。

「多くの母親が誰にも相談できずに、悩んでいる。強いストレスを感じている人々に対して手を打つのが国の役割ではないか」と指摘する。

取材を通じて感じた行政への根強い不信感や、普通の生活を送れないことへの不満。原発事故の影響が、いまだに住民たちの暮らしに影を落としていると実感した。

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