2016/07/22

福島の避難指示解除 住民追い詰めない丁寧な対応を

2016年07月22日 愛媛新聞
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201607226608.html 

東京電力福島第1原発事故で福島県内に出されていた避難指示が、先月から今月にかけ南相馬市や川内村などで相次ぎ解除された。政府は来年3月末までに、帰還困難区域を除く全ての避難指示を解除する方針だ。帰還か移住かの難しい決断を迫られる住民を追い詰めないよう、きめ細かな対応を求めたい。

南相馬市では市立病院や商業施設、鉄道が再開するなど生活インフラ整備が進んではいる。とはいえ住民が置かれた環境はさまざまだ。行政が「背中を押す」ことで、ためらっていた一歩を踏み出せる人がいるのは分かるが、それでも決断できず、望まぬ方向に進まざるを得ない人を切り捨ててはなるまい。

仮設住宅の高齢者らの中には「先が見えない」と苦悩する人が少なくない。避難指示解除に伴い、いずれ退去を余儀なくされるためだ。「自宅に戻っても人がいない」「復興公営住宅に入れたとしても周囲との交流がなくなる」―孤立への不安は多くの人に共通する。

 新たなコミュニティーづくりに注目が集まる。ある仮設住宅は、退去後に「シェアハウス」での共同生活を模索している。市は「公営住宅として想定していない形態」と支援に否定的だが、復興には規定や前例にとらわれない柔軟な対応が求められる。行政と住民が知恵を出し合い、行き場がなく孤立する人をなくす取り組みを急ぐべきだ。

仕事や教育、放射線への根強い不安などで今すぐには戻れないが、将来の可能性は残したいという人もいるだろう。帰還する住民が少ない行政区の統合が取り沙汰される地域もある。新たな分断や不利益が生じることがないよう、政府や自治体は決断に時間を要する住民への目配りも怠らないでもらいたい。

 被災地には除染廃棄物が詰まった袋が積み上げられている。原発近くの中間貯蔵施設に移送されるはずが、完成の遅れでほぼ手つかず。地権者2365人のうち契約できたのは160人余り、面積は全体の3%に満たない。生活圏のそばに放射性物質を含む廃棄物が置かれた状態で、住民に帰還を促す矛盾から政府は目を背けてはならない。

 帰還困難区域の解除に向けた動きも表面化した。2017年度から除染などを本格化させ、21年度をめどに役場や駅周辺など一部地域を段階的に解除するという。避難区域でとりわけ放射線量が高いだけに一筋縄ではいくまい。復興のアピールを重視するあまり、帰還の道筋が描けぬまま見切り発車することがないようくぎを刺しておく。

 来年3月に帰還可能になる飯舘村の菅野典雄村長は、役場機能を5年ぶりに村に戻した先日の帰庁式でこう述べた。「ゼロからのスタートではなく、ゼロに向けた長い復興の道のりのスタートだ」。被災地の声を受け止め、正しく知ることが復興につながるのだと、一人一人が肝に銘じたい。避難指示の解除は一つの要素にすぎない。

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