http://mainichi.jp/articles/20160705/k00/00m/040/087000c
東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た汚染土について環境省は、放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレルを上限に道路の盛り土など公共工事で再利用する方針を正式決定したが、同省の非公開会合では農地の除染基準との整合性も課題となった。一方、公開会合では汚染土の再利用に「インセンティブ(特典)」が必要との議論も出ており、専門家は「偽装リサイクルの恐れがある」と指摘する。【日野行介】
除染で出た汚染土で盛り土を造り放射線量を測る実証実験を年内にも始める 「仮置き場」の敷地内には、黒いフレコンバッグが山積みにされている =福島県南相馬市小高区で2016年6月11日、土江洋範撮影 |
本来、原子炉等規制法は「原発解体で生じる金属などを安全に再利用できる基準」(クリアランスレベル)を100ベクレル以下と規定。これは国際放射線防護委員会が「健康リスクが無視できるレベル」として定めた基準「被ばく線量年間0.01ミリシーベルト」から導いた数値で、これを超えれば放射性廃棄物として地下埋設するよう定める。
だが、事故の発生で原発構外に想定外の汚染が拡大。2012年1月全面施行の放射性物質汚染対処特別措置法は8000ベクレル超の廃棄物を「指定廃棄物」として国が処理し、それ以下は一般の廃棄物と同様に処理することにした。8000ベクレルは原子炉等規制法に基づく一般人の年間被ばく線量の上限値1ミリシーベルトから導いた数値。100ベクレルと8000ベクレルの違いを環境省は「再利用」と「廃棄処理」の違いと説明していた。
今回の汚染土再利用は、この説明と矛盾する。そこで環境省は、盛り土の汚染土をコンクリートなどで覆い放射線を遮蔽(しゃへい)することで「線量はクリアランスレベルと同等」と理屈付けしたが、これを議論した同省の非公開会合では、農地の除染基準との整合性も話題に上っていた。
農林水産省は事故直後の11年4月、5000ベクレル超の水田でコメの作付けを制限。1年限りの規制値だったが、その後も除染時に5000ベクレル超の表層土ははぎ取り、それ以下の表層土は下層土と入れ替える「天地返し」の基準値として使われている。
濃度が同じレベルの土をはぎ取る一方で再利用すれば整合性が問われかねないが、非公開会合ではその後、具体的な検討はされず、公開の会合では議題にもならなかった。
一方、汚染土は、全国であつれきを生んだ震災がれきより放射能濃度が高い。環境省の公開の会合では利用者へのインセンティブが議題に上り「使う動機づけがなければ普通は通常の土を使ってしまう」との発言も出た。
こうした議論を熊本一規・明治学院大教授(環境政策)は「経済的メリットを与えて引き取らせる『逆有償』になる危険性が高い」と懸念する。再生資材を装い、逆有償取引で廃棄物を押し付ける事件は、土壌埋め戻し材「フェロシルト」や鉄精製時に排出される「スラグ」などで後を絶たない。熊本氏は「逆有償で引き取らせれば、その後不法投棄される危険性もある。再利用は汚染の拡散につながる」と批判した。
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