2015/08/19

(社説)原発被災者支援 避難に国の責任果たせ

2015年8月19日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015081902000133.html

福島原発事故の避難者のための「子ども・被災者支援法」で国が示した基本方針の見直しは、被災者の悲しみや苦境にむち打つものだ。原子力災害に対する国の責任を放免してはならない。

復興庁が提示した基本方針の改定案は、原発被災者への賠償を縮小し、地元帰還を進める国の政策に連動させている。県が自主避難者への応急仮設住宅の無償提供を二〇一七年三月で終える方針を示したのを踏まえた見直しだという。

支援地域は、避難指示区域を除く福島県の浜通りと中通りの三十三市町村を当面維持するとしながらも、将来的には縮小や撤廃するのがよいとする。

これでは被災者は納得できない。今でも、支援法の対象地域は福島県内に限られ、放射能被害を受けて支援を受けるべき栃木や宮城、茨城などの地域は含まれていない。避難指示区域が解除されるのに従い、自主避難者が増えていくのは確実だ。支援の枠を広げておくことこそが必要ではないか。

原発事故の翌年に施行された支援法は、公的な賠償や支援がなかった避難指示区域外の人々や自主避難者の生活を支えるために、全会派の国会議員の手でつくられた。

その基本は、原子力災害に対する国の社会的責任にある。だが、政府はその責任を果たさず、法は骨抜きにされようとしている。

広島や長崎の原爆被害の歴史が証明するように、核汚染の実態を過小に見積もり、必要な支援を早々に打ち切れば、将来に禍根を残す。

さらに改定案には「避難指示区域以外から避難する状況にない」と、自主避難者の避難を不要とする方針が明記された。被災地の年間の空間放射線量が避難指示基準の二〇ミリシーベルト以下となり、原子力規制庁が「避難指示を解除できるレベル」との見方を示しての判断というが、被ばくの問題を矮小(わいしょう)化した考え方ではないか。

被災地が避難指示を解除できるレベルにあることと、放射能の不安を感じた人々の避難を不要だということは次元が違う。避難指示が解除されても放射能汚染が残る場所は無数にある。

支援法は、被災者が地元にとどまるか、地元から逃れるか、地元に帰るか、いずれを選んでも支援を受けられるように求めている。

改定案は被災者の選択をむげにする。事故・災害の責任の原点に立ち返るなら「自主避難者」を支援から切り離すことはできない。





この記事を印刷する

0 件のコメント:

コメントを投稿