http://www.nishinippon.co.jp/nnp/science/article/191635
九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働で「核のごみ」の最終処分場問題があらためて注目を集める中、経済産業省資源エネルギー庁は、地中深くに埋める地層処分を授業テーマとするよう学校への働きかけを強める方針だ。適地調査から埋め終えるまで100年以上かかるとあって、子ども世代の理解が不可欠と判断した。住民の反対運動で用地選定が進んでおらず、将来を見据えた“急がば回れ作戦”ともいえるが、教育関係者からは早くも異論が出ている。
処分方法には大きく分けて地層処分のほか、地表に建てた施設で保管する「地上管理」、宇宙空間に投棄する「宇宙処分」などがある。同庁は「地上管理は長期間の監視が必要。宇宙処分はロケット発射の信頼性に問題がある」などとし、地層処分の実施を国策として決めている。
同庁は5、6月、地層処分への理解を求める一般向けシンポジウムを各地で開催した。その中で教育現場での取り組み強化を訴える声があり、同庁放射性廃棄物対策課は「小学校から大学まで授業や講義で取り上げてもらえるよう教材の提供、講師派遣を積極的にやっていく」と本腰を入れる考えを表明。具体的な活動は、経産相の認可団体「原子力発電環境整備機構」(NUMO)が担う。
■中高で試行
NUMOはこれまで、授業の進め方を学んでもらう教員向けセミナーを全国で開いてきた。それをきっかけに2013年度からは中学3年の社会科や高校3年の総合学習で、かつて最終処分場誘致に手を挙げた自治体の動きを考えたり、海外の動向を学んだりする授業=イラスト参照=が試行されている。九州では、川内原発が立地する鹿児島県で実践例がある。
長崎大では、14年度後期に主に2年生を対象とした講義「環境と社会」で取り上げた。どの処分方法が適切かを学生に議論させたところ、地層処分と地上管理を推す声がほぼ同数だったという。担当の藤本登教授(エネルギー環境教育)は「学校現場で多くの知識と議論の場を提供することが大事」と意義を語る。
■保護者賛否
同庁とNUMOは、試行段階での実践例を基に「核のごみ」教育の導入を学校現場に働きかける方針。ただ、中学理科の学習指導要領には既に「原子力などの発電の仕組みやその特徴について理解させる」とあるのに「最終処分問題まで深めて考えてもらう授業はほとんど行われてこなかった」(藤本教授)という。背景には、保護者の間で原発への賛否が割れていることがあるようだ。子ども世代の教育にも“大人の事情”が絡むだけに、狙い通りといくかは未知数だ。
●「国策の一方的説明に」専門家懸念
国内の原発でたまり続ける「核のごみ」問題を児童・生徒が学ぶことには、原発反対派の間でも必要性を認める声がある。ただ、資源エネルギー庁やNUMOの取り組みに対しては、専門家から「授業が一方的な国策の説明になるのではないか」との指摘もある。
今月上旬、京都市で開かれた日本エネルギー環境教育学会(経済産業省、電気事業連合会など後援)の会場に、地層処分を学んでもらうNUMOの展示車が乗り入れた。
見学を終えた京都府宇治市の男性(42)は「直接処分は検討しなくていいのかなぁ」と納得いかない様子だった。核燃料サイクル政策を前提とした内容に疑問を持ったのだ。
NUMOが言う「核のごみ」とは、高レベル放射性廃棄物だけを指す。使用済み核燃料を再処理し、その際に出る廃液をガラスで固めたものだ。ところが、再処理工場は本格稼働にめどが立っていない。再処理できなければ、ごみとして処分場に埋める「直接処分」となる可能性が高い。しかし、NUMOは使用済み核燃料を「資源」と説明し続けている。
「核燃料サイクル政策など今後のあり方が定まっていないものを学校で伝えるのには限界がある」と東京電機大の寿楽浩太助教(科学技術社会学)は指摘。香川大の笠潤平教授(科学教育)は「原発に否定的な情報提供を含めて教える必要がある」とし「NUMOは原発推進の立場。一方的な情報提供は、福島原発事故前の状況と何ら変わらないのではないか」と話す。
× ×
▼核のごみと原発稼働
全国の原発では、使用済み核燃料を長期保管する貯蔵プールの容量が満杯に近づいている。使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出し、再利用する再処理工場(青森県六ケ所村)が稼働すれば、減らすことができるが、再処理工程でトラブルが続き、本格稼働の見通しはない。使用済み核燃料を再処理しないまま地層に埋める方法もあるとはいえ、国内に最終処分場ができなければ、貯蔵プールは満杯になって原発は稼働させられなくなり、国が最終処分場建設計画を急ぐ理由となっている。
=2015/08/28付 西日本新聞夕刊=
九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働で「核のごみ」の最終処分場問題があらためて注目を集める中、経済産業省資源エネルギー庁は、地中深くに埋める地層処分を授業テーマとするよう学校への働きかけを強める方針だ。適地調査から埋め終えるまで100年以上かかるとあって、子ども世代の理解が不可欠と判断した。住民の反対運動で用地選定が進んでおらず、将来を見据えた“急がば回れ作戦”ともいえるが、教育関係者からは早くも異論が出ている。
処分方法には大きく分けて地層処分のほか、地表に建てた施設で保管する「地上管理」、宇宙空間に投棄する「宇宙処分」などがある。同庁は「地上管理は長期間の監視が必要。宇宙処分はロケット発射の信頼性に問題がある」などとし、地層処分の実施を国策として決めている。
同庁は5、6月、地層処分への理解を求める一般向けシンポジウムを各地で開催した。その中で教育現場での取り組み強化を訴える声があり、同庁放射性廃棄物対策課は「小学校から大学まで授業や講義で取り上げてもらえるよう教材の提供、講師派遣を積極的にやっていく」と本腰を入れる考えを表明。具体的な活動は、経産相の認可団体「原子力発電環境整備機構」(NUMO)が担う。
■中高で試行
NUMOはこれまで、授業の進め方を学んでもらう教員向けセミナーを全国で開いてきた。それをきっかけに2013年度からは中学3年の社会科や高校3年の総合学習で、かつて最終処分場誘致に手を挙げた自治体の動きを考えたり、海外の動向を学んだりする授業=イラスト参照=が試行されている。九州では、川内原発が立地する鹿児島県で実践例がある。
長崎大では、14年度後期に主に2年生を対象とした講義「環境と社会」で取り上げた。どの処分方法が適切かを学生に議論させたところ、地層処分と地上管理を推す声がほぼ同数だったという。担当の藤本登教授(エネルギー環境教育)は「学校現場で多くの知識と議論の場を提供することが大事」と意義を語る。
■保護者賛否
同庁とNUMOは、試行段階での実践例を基に「核のごみ」教育の導入を学校現場に働きかける方針。ただ、中学理科の学習指導要領には既に「原子力などの発電の仕組みやその特徴について理解させる」とあるのに「最終処分問題まで深めて考えてもらう授業はほとんど行われてこなかった」(藤本教授)という。背景には、保護者の間で原発への賛否が割れていることがあるようだ。子ども世代の教育にも“大人の事情”が絡むだけに、狙い通りといくかは未知数だ。
●「国策の一方的説明に」専門家懸念
国内の原発でたまり続ける「核のごみ」問題を児童・生徒が学ぶことには、原発反対派の間でも必要性を認める声がある。ただ、資源エネルギー庁やNUMOの取り組みに対しては、専門家から「授業が一方的な国策の説明になるのではないか」との指摘もある。
今月上旬、京都市で開かれた日本エネルギー環境教育学会(経済産業省、電気事業連合会など後援)の会場に、地層処分を学んでもらうNUMOの展示車が乗り入れた。
見学を終えた京都府宇治市の男性(42)は「直接処分は検討しなくていいのかなぁ」と納得いかない様子だった。核燃料サイクル政策を前提とした内容に疑問を持ったのだ。
NUMOが言う「核のごみ」とは、高レベル放射性廃棄物だけを指す。使用済み核燃料を再処理し、その際に出る廃液をガラスで固めたものだ。ところが、再処理工場は本格稼働にめどが立っていない。再処理できなければ、ごみとして処分場に埋める「直接処分」となる可能性が高い。しかし、NUMOは使用済み核燃料を「資源」と説明し続けている。
「核燃料サイクル政策など今後のあり方が定まっていないものを学校で伝えるのには限界がある」と東京電機大の寿楽浩太助教(科学技術社会学)は指摘。香川大の笠潤平教授(科学教育)は「原発に否定的な情報提供を含めて教える必要がある」とし「NUMOは原発推進の立場。一方的な情報提供は、福島原発事故前の状況と何ら変わらないのではないか」と話す。
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▼核のごみと原発稼働
全国の原発では、使用済み核燃料を長期保管する貯蔵プールの容量が満杯に近づいている。使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出し、再利用する再処理工場(青森県六ケ所村)が稼働すれば、減らすことができるが、再処理工程でトラブルが続き、本格稼働の見通しはない。使用済み核燃料を再処理しないまま地層に埋める方法もあるとはいえ、国内に最終処分場ができなければ、貯蔵プールは満杯になって原発は稼働させられなくなり、国が最終処分場建設計画を急ぐ理由となっている。
=2015/08/28付 西日本新聞夕刊=
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