2016/01/11 中日新聞
東京電力福島第一原発事故の避難区域に隣接する三十~九十キロ圏の九市町村で二〇一三年から毎年、実施されている子育て中の母親への意識調査で、回答者の半数以上が子どもの健康や差別に不安を抱いていることが分かった。十一日で震災から四年十カ月。調査した研究グループの代表で中京大現代社会学部の成元哲(ソンウォンチョル)教授(49)は「原発事故の影響が慢性化している」と対策の必要性を訴えている。
調査名は「福島子ども健康プロジェクト」で、対象者は一二年十~十二月時点で避難区域外の九市町村に住民票を置き、〇八年度生まれの子を持つ母親ら。事故直後と半年後の生活状況などを併せて聞いた一三年以降、年に一度のアンケートで追跡調査しており、今回が三回目となった。
放射線の健康への不安は、事故直後の95%から大きく減少したものの、なお、半数超の58%に上る。福島市のある母親(43)は「放射線量は自分も周囲も気にしていない感じになっている。ただ子どもたちの将来の健康不安はずっとある」と回答した。
「放射能に関する情報が正しいのか分からない」と回答した人は七割近く。「国や東電の対応を評価する」とした人が二割以下にとどまっていることも、不安を呼ぶ原因とみられる。
一四年の第二回調査から新たに設けたいじめや差別への不安については、51%が「あてはまる」と回答。「子どもが結婚する際に、県外者などから『福島の人とは…』と反対を受けたりするのではないか」(本宮市・三十歳)との記述もあった。
「じいちゃん、ばあちゃんに『福島県産の物は食べないのか』『お金がかかるから福島産でいいんじゃないの』と言われる」(郡山市・三十五歳)と周囲との認識のずれにストレスを感じる人も少なくない。
九市町村では、避難区域から避難している世帯に東電から一人当たり月十万円の賠償金が支払われるが、事故以前からの住民には支払われない。「補償の不公平感」を感じている人は70%で、事故直後の73%とほとんど変わっていない。
回答者からは「(避難してきた人が)賠償金で生活しているのは不公平。毎日一生懸命働く人たちがばかみたいに思えるときがある」(福島市・三十五歳)との声も寄せられた。
成教授は「母親は子どもの健康と差別に関し、いつ終わるのかも分からない不安を抱えており、住民の間での放射線の影響の受け止め方、対処の仕方の違いが母親の苦しみを深めている」と指摘している。
(立石智保)
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