http://news.biglobe.ne.jp/it/0219/mnn_160219_2070096686.html
●3大学のプロジェクトがボランティアに発展
2011年3月11日、東日本大震災が発生し、東北や関東地方を中心に未曾有の被害が生じた。以降、国はもちろん各自治体、企業・団体、個人ボランティアなどが被災地復興のためにさまざまな支援を続けてきた。そんななか、地震発生から5年という節目を前に静かに幕を降ろす支援がある。神戸学院大学と工学院大学を中心とする「あなたの思い出まもり隊」プロジェクトだ。
同プロジェクトは、津波で汚れてしまった写真を修復し被災者に戻す支援活動で、その報告会が2月中旬に工学院大学で開かれた。
報告会に先立ち登壇した工学院大学 佐藤光史学長は「多くの貴重な命が奪われ暗澹(あんたん)たる思いになった」と当時の心境を振り返りながら、「学生や多くのボランティアの方々が復興支援に向けて努力されたことが“救いのひとつ”になった」と、支援活動に関わったすべての人たちの労をねぎらった。
また、佐藤学長によると神戸学院大学と工学院大学は、復興支援活動に取り組みやすい素地があったとする。というのも、この両大学と東北福祉大学を加えた3大学は、「TKK3大学連携プロジェクト」と称し、震災前の2009年より防災・減災・ボランティアを中心にした社会貢献教育を展開していたからだ。加えて工学院大学は“日本初”の建築学部を設立した学校法人。建築学を学ぶにおいて防災・減災は不可分な領域であり、被災地でのボランティアは学生にとっても意義があるといえる。
写真修復という困難な作業については、神戸学院大学と工学院大学がおもに請け負った。東北福祉大学はまさに被災者そのもので、修復作業にあたる人的リソースを提供できる状態になかったため、プロジェクトの周知や写真の収集・送付という限定的な役割を担ったという。
●津波で汚れてしまった食器や家具を洗う水すらない……
“被災者の写真を修復する”と発案したのは神戸学院大学 現代社会学部 社会防災学科 舩木伸江准教授だ。「阪神淡路大震災のとき、さまざまな方に支援していただきました。東日本大震災の報に接した際、何かできることはないかと考えました」と舩木准教授はいう。ただ、写真修復のアイデアが生まれたのは被災地に入り、被害状況を目の当たりにしてからだ。
○30,000枚以上の写真を修復
「食器や家具が津波にさらされ、泥だらけになっていました。水で洗い流せば思い出の品を取り戻せるだろうに、その洗浄のために使える清潔な水すらない。被災者の方々が大切にしている品を神戸に持ちかえって洗浄できれば……」(舩木准教授)というのが、写真修復に思い至ったいきさつだ。
活動報告会によると、依頼件数は408件、確認した写真枚数は80,392枚、修復可能と判断しデジタル化した写真枚数は43,524枚、実際に修復でき依頼者へ届けた写真枚数は36,184枚にのぼったという。修復できた割合は約45%で、半数以上の写真はもとに戻らなかった。津波の暴力的な威力がうかがえる一事といえよう。
いずれにせよ、写真は被災者にとって思い出が宿った大切なもの。修復された写真の中には、震災で亡くなられた方の姿を残す最後の1枚になってしまったケースも考えられる。それでも、遺族にとってはかけがえのない大切な1枚……。「あなたの思い出まもり隊」プロジェクトの意義は、被災者を心的に支えたという点で、大きいといえるのではないだろうか。
●福島産材料を使った商品を開発
ひとつの支援がその幕を閉じるのと時を同じくして、新たな施策も立ち上がっていく。ラッシュジャパンが2種類の「NOT WRAP」とソープ「つながるオモイ」を販売開始することも、そうした施策のひとつ。NOT WRAPとはわかりにくいが、いわゆる“ふろしき”のことである。
両商品の特徴は、被災地の農業・農地・コミュニティ再生を手がける団体が生産する素材を原材料に用いていること。NOT WRAPは、福島県いわき市を拠点に活動する企業組合「おてんとSUN」が生産するオーガニックコットンを5%使用。残りの95%はアメリカ産となるが、これはまだ、手がけているオーガニックコットンの生産量が少ないためだ。
おてんとSUNの酒井悠太さんは「コスメティックを手がけるラッシュさんの名前はよく知っていたので、お電話をいただいた時には驚きました。いわきのオーガニックコットンを使って商品を出したいという企業は多数ありましたが、ノベルティなど事業につながらないものばかり。今回のラッシュさんの提案で、ビジネスとして形になりました」と語った。
一方、つながるオモイは、一般社団法人「南相馬農地再生協議会」が生産する菜種油「油菜ちゃん」を原材料にした石けんだ。菜種は土壌中の水に溶けている放射性物質「セシウム」を根から吸収し、搾油の際に「油」とセシウムを含んだ「油粕」に分離できる。つまり、油生産と同時に土壌の洗浄も行える。これはチェルノブイリ原発のあるウクライナで進められている研究でわかったことで、南相馬農地再生協議会がその手法に着目した。
南相馬農地再生協議会の杉内清茂さんは「菜種油を作ることで農地を浄化しながら、経済活動につなげていきたいです」と胸の内を語る。
いずれの例にしても、事業として軌道に乗せたいというのが両団体の願いで、経済活動が長く継続してこそ復興の早道になると考えている証拠だ。単なる物的支援ではなく、経済活動の場を提供できる施策が大切になってくる。
「ラッシュさんの提案は、支援だとは考えていません。私たちが経済的に自立できるチャンスだと思っています」という、おてんとSUN 代表理事 吉田恵美子さんの言葉が印象的。この記事中、ラッシュが福島県の2団体に示した提案を“支援”ではなく“施策”と表現したのは、この吉田さんの発言が頭に残っていたからだ。
まだまだ直接的な支援を必要とする被災者、企業・団体は数多い。だが、経済的な自立を促す施策もその重要性が増している。震災から5年……支援の形は新たなフェーズに入らなければならないだろう。
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