2016/02/18

福島が挑む!健康増進 ポイント制で健診・体操促す原発事故後に運動不足、肥満増加… 最悪期脱す

2016年2月18日 日本経済新聞
http://style.nikkei.com/article/DGXKZO97408190Y6A210C1NZBP01 

東京電力福島第1原子力発電所事故からまもなく丸5年。福島県では今も10万人近くが避難生活を続けている。環境の大きな変化にさらされている県民の健康をサポートしようと、県は多様な取り組みを展開している。子供の肥満傾向が改善するなど一定の効果も見え始めた半面、避難生活の長期化を背景に心身の不調などの問題もなお横たわる。

福島県は1月20日、県民の健康増進を支援するユニークな事業を始めた。ウオーキングや体操を30日間継続、体重や血圧、朝食を取ったかどうかを記録、健康診断を受診――などのメニューを達成してポイントをためると「ふくしま健民カード」がもらえる。カードを提示すれば県内約200の協力店で割引などの特典を受けられる。

「ふくしま健民カード」は、ためたポイントに応じて5段階にランクが上がる
まず同県二本松市、西会津町、新地町で試験的にスタート。6月以降、参加自治体を増やし、楽しみながら運動習慣や食生活を改善する県が開発中のスマートフォン(スマホ)用アプリも導入する。今後数年間で事業を県内全域に広げる計画だ。

県が健康増進策に力を入れるのは原発事故後、肥満や喫煙率、要介護認定率など県民の健康指標の悪化が背景にある。生活習慣病の危険が高まるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)該当者は事故前の2010年度は15.2%で全国で14番目の多さだった。事故後の13年度は16.5%に増え、3番目になった。


子供も肥満傾向が続いていたが、1月発表の15年度学校保健統計調査(速報)では改善がみられた。県内の5~17歳で肥満傾向児の割合は14年度は6つの年齢がワーストだった。

15年度はワーストがゼロで、原発事故前の水準に戻った。県健康教育課は「子供に運動習慣を身に付けさせる独自のプログラムなどの効果が表れたのではないか」とみる。

県が独自の運動プログラムの普及に取り組み始めたのは14年度から。動物の動きを取り入れた運動を紹介するDVDと冊子を県内の全公立小学校に配った。

15年度からは、体育の授業への専門アドバイザー派遣や食育指導のほか、体力テスト・健診結果や食生活を記入する「自分手帳」の配布など、健康意識向上を促してきた。16年度からは、専門アドバイザーの派遣先を新たに県内7市町に設け、幼児や低学年も対象に体力作りの指導を始める。

肥満や運動能力低下の要因とされていた学校での屋外活動制限も解消された。事故直後の11年6月には県内の公立小中高(約810校)の15%が屋外活動を全面的に制限、50%が一部制限していた。

しかし放射線量の低下などに伴い制限する学校は徐々に減り、15年度はゼロになった。県は「20年度までに肥満児の割合を全国平均と同水準まで改善する」との目標を掲げる。


健康増進の取り組みが進む半面、なお避難を続ける県民の状況は厳しい。県が県内外への避難者を対象にした14年度の意向調査では、心身の不調を訴える人がいる世帯は66.3%にのぼり、前年度とほぼ横ばいだった。不調の内容(複数回答)は「よく眠れない」「何事も以前より楽しめなくなった」「疲れやすくなった」「イライラする」などが上位に並んだ。

県は、県内の仮設住宅や借り上げ住宅などで住民の見守り活動などをする生活支援相談員を配置。県外避難者には生活再建の相談などを受ける復興支援員を9都県に配置するなどして対応にあたる。

県避難者支援課は「避難生活の長期化や先行きが見えない不安などが、避難者の心身の不調の背景にあるのではないか」と話す。避難者の心身の健康に対するサポートが欠かせない状況がなお続く。

災害列島の日本では、地震や火山噴火などがいつ起こるか分からない。福島の取り組みは決して「特効薬」ではないが、今後の参考になるはずだ。

◇     ◇

■放射線被曝と甲状腺がん発症 県民調査委「影響 考えにくい」
福島県民が抱える不安の一つが、放射線被曝(ひばく)と甲状腺がんの関連性だ。福島県や県立医科大は、原発事故当時18歳以下だった約38万人を対象に甲状腺検査を実施。2011~13年度の1巡目と14年度から始まった2巡目の検査を合わせ、昨年12月末時点で計166人が「がん」や「がんの疑い」と診断された。

県民健康調査検討委員会は「現時点で放射線の影響とは考えにくい」という見解を変えていない。だが、一人ひとりの甲状腺への被曝が、実際にどの程度だったのかは分かっていない。

放射線医学総合研究所は被曝量を推計する研究に取り組む。事故直後の行動記録などを基に推計の精度向上を目指すが、事故直後でないと測れなかったデータの不足などから難航中だ。

県が11年6月から始めた県民健康調査も、事故後4カ月間の外部被曝線量を推計するための「基本調査」問診票の回答率は20%台にとどまる。事故直後の記憶が薄れ、行動記録の記入が難しいためだ。

県立医科大は大阪大、名古屋大などと昨年から、がんの潜在的な患者数を推計する研究を始めた。国立がん研究センターの甲状腺がん患者のデータを基に、症状が出る前のがん患者やがん疑いの数を推計する。甲状腺検査と比較できるデータの作成が目標だ。
(福島支局長 松本勇慈)

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