2015/08/04

福島・楢葉町住民、帰還へ思い交錯 9月5日避難解除

2015年8月4日 日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXLZO90113790U5A800C1CN0000/

東京電力福島第1原子力発電所事故で全住民が避難した福島県内の7町村で初めて、9月5日に避難指示が解除される楢葉町。約7400人の町民は町に戻るか、避難先にとどまるかの選択を迫られる。「解除は復興への第一歩」と理解を求める政府に対し、町民の間では「いよいよ古里に」「除染が不十分」などと期待と不安の声が交錯している。

「戻りたい住民に避難を強制するほど危険な状況ではない」。国の原子力災害現地対策本部は7月6日、9月5日に楢葉町の避難指示を解除すると発表した。住民側の意向を受け、当初の予定だった8月のお盆前から先送りした。竹下亘復興相は解除について「復興に向かう重要な一歩だ」と強調している。

昨年10月時点の町民の意向調査では、「(避難指示解除後に)すぐに戻る」が9.6%、「条件が整えば戻る」が36.1%だったのに対し、「戻らない」が22.9%。「今はまだ判断できない」が30.5%に上った。

「隣家の生活音に悩まされることもない。やっぱり自宅がいい」。根本正一さん(80)は、楢葉町の住民の約8割が避難する同県いわき市の仮設住宅から家具の運び込みを既に始めている。国が解除時期を示したことについては「帰還を迷っている人たちの背中を押すことになるのでは」と期待する。

高校卒業後に就職で横浜市に出て、定年退職後に里帰りした。古里の生活を早く取り戻したい。放射性物質などへの不安はあるが、「誰かが先陣を切って帰らなければ町が消えてしまう」と力を込める。

「政府の『安全』という言葉をうのみにはできない」。いわき市に避難中の鎌倉みつ子さん(58)は仮設住宅にとどまるつもりだ。不安の原因は水道水。環境省の昨年11月の調査では、水源の木戸川の上流にあるダム湖底の土砂から1キロ当たり最高1万6千ベクレルと高濃度の放射性セシウムが検出された。

国は帰還時に各家庭の水道水の放射性物質を検査するが、町議会が求めるダムの除染作業は行わない方針だ。鎌倉さんは「一度水を入れ替えてでも除染をしてほしい」と訴える。

幼い子供を持つ母親らの間では放射性物質への不安が根強く、町の将来を担う若い世代の帰還が進むかどうかは不透明のままだ。

帰還には生活環境の整備も大きな課題となっている。町民の意向調査によると、「医療機関、介護、福祉サービス、商店の再開」や「道路、鉄道、学校などの社会基盤の復旧時期」への関心が高かった。治安対策の強化を求める声も多い。

町によると、震災前にあった医療機関の再開は解除後の10月以降、新たに誘致した診療所の開設は来年2月の見通しだ。2店あったスーパーのうち、1店は仮設店舗での縮小営業となり、もう1店は再開のメドが立っていないという。

国は、隣接する広野町にある医療機関への無料バスの運行本数を増やしたり、スーパーの宅配サービスを活用するよう勧めたりしている。帰還を復興への第一歩とするためには、いったん失われた生活を再建する町民の不安を払拭する支援策が求められている。

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