http://mainichi.jp/select/news/20151202k0000m040159000c.html
東京電力福島第1原発事故の避難者に向けた応急仮設住宅はあと1年半足らずで打ち切られ、その受け皿として復興公営住宅の建設が進むが、予定戸数は昨年末時点の避難戸数に比べてわずかに過ぎない。入居対象が帰還困難区域などに自宅がある「長期避難者」に限られるからだが、長期避難者には東電の賠償金で新たな住宅を購入する人も少なくなく、復興公営住宅の応募倍率は低迷している。入居できない避難者からは「何のため、誰のための復興公営住宅なのか」と疑念の声が上がる。【日野行介】
福島県楢葉町の自宅から避難して、いわき市の仮設住宅で暮らす新妻敏夫さん(66)は「何で楢葉の住民には復興公営住宅がないのか」と憤る。
原発事故で同町は全域に避難指示が出され、新妻さんは長男(47)一家のため半年前に増築したばかりの自宅を後にした。千葉県内の運送会社での33年間にわたる「出稼ぎ」を終え、ようやく子供や孫と一緒の暮らしを始めた直後だった。
親戚のいた埼玉県に妻と共に一時避難した後、いわき市の仮設住宅に入居した長男一家の近くにいたいと、同市内の別の仮設住宅に転居した。2013年から楢葉町の見回り事業に参加して自宅を定期的に訪れるようになり、今ではほぼ2日に1度、いわき市から車で自宅に通う。同行して見せてもらうと2階建て約290平方メートルの木造住宅に大きな損傷はなかった。
だが、2年前に除染した自宅裏手の放射線量は思ったほど下がらず、60年前に植えた木を再除染のために全て伐採。切り株の間で線量計は次第に上がり、自宅の雨どいの水が流れ出る所では毎時10マイクロシーベルトを超えた。
国は今年9月5日、楢葉町の避難指示を解除した。仮設住宅は17年3月末で打ち切られるが、受け皿として福島市やいわき市などで建設が進む復興公営住宅に楢葉町の住民は入れない。町内には原発の廃炉に向けた研究施設が完成し関連企業も進出。除染や収束作業に向けた10カ所ほどのプレハブ宿舎に約1100人が住み、さながら原発事故の前線基地の様相だ。こうした事情を反映したのか住民の帰還は進まず、新妻さんの集落約90戸のうち寝泊まりしているのは3世帯ほどしかないという。
線量計を手に自宅周辺を見回る新妻敏夫さん。 自宅裏側は今も線量が高い=福島県楢葉町で |
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原発事故の避難者に向けた復興公営住宅は、従来の自然災害における「災害公営住宅」と名称が違うだけで法的には同じだ。自然災害では一般的に、プレハブなど長期居住に適さない仮設住宅に避難し、数年後に堅固な災害公営住宅に移ることになるが、今回の避難戸数4万3700戸(津波被災者含む。昨年12月末時点、福島県調査)のうちプレハブなどの仮設は3割弱に過ぎない。7割以上の3万戸超は民間アパートなど長期居住が可能な「みなし仮設」で、住み続けられれば復興公営住宅の必要性は乏しい。
その仮設住宅は2017年3月末で提供が打ち切られる。にもかかわらず、復興公営住宅の建設計画戸数はわずか計4890戸。津波被災者向けの災害公営住宅約2800戸を含めても避難戸数の約17%にとどまる。入居対象を帰還困難区域などからの「長期避難者」に限り、福島市などから県外への自主避難者だけでなく、既に避難指示が解除された楢葉町や田村市から県内他市町村への避難者らにも原則、入居を認めないからだ。入居対象外の避難者は仮設打ち切り後、福島県内の自宅に戻るか、自力で住宅を確保するしかない。
一方で長期避難者には、新たな住宅を購入すれば東京電力からの賠償額が上乗せされるため、復興公営住宅の応募倍率は低下傾向にある。今年4月に始まった第3期(1349戸)では383戸が埋まらず再募集された。建設計画縮小との声も出始め、避難者とのミスマッチは明らかだ。被災者の住宅問題に詳しい津久井進弁護士は「復興公営住宅は『受け皿』と強調して被災者を仮設住宅から退去させ、『避難』を早く終息させる道具になっている」と疑問視する。
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