2016/04/27

チェルノブイリ原発事故 30年 ベラルーシで進む原発依存 国土2割汚染 不安今も

2016年4月27日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160427/ddm/007/030/155000c

1986年に旧ソ連・ウクライナで起きたチェルノブイリ原発事故から26日で30年が経過した。大量の放射性物質は14万平方キロもの広大な地域を汚染。ウクライナや隣国ベラルーシでは現在も住民の健康への影響が残る一方、両国は原発依存へと進んでいる。ベラルーシの状況を現地から報告する。【ゴメリ(ベラルーシ南東部)とオストロベツ(同北西部)で真野森作】

ベラルーシ第2の都市ゴメリ。国立放射線医学人間環境研究センター・小児血液科で、入院中のマクシム君(3)がミニカー遊びに夢中になっていた。チェルノブイリから北西200キロに位置するゴメリ州ジトコビチで生まれ育ったマクシム君は約1年半前から白血病の治療を受けている。母ナデージュダさんは「原発事故と関連があるか明確な答えはない。とにかく良くなってほしい」と表情を曇らせた。

ベラルーシ国立放射線医学人間環境研究センター・小児血液科の遊戯室で遊ぶ
3歳のマクシム君(右)ら入院中の子供たち=ベラルーシ南東部ゴメリで2月19日

ベラルーシでは事故当時、国土の2割強が汚染された。現在でも人口約950万人の12%にあたる約114万人が汚染地域に暮らす。法律上、年間被ばく線量5ミリシーベルト未満の地域は居住可能。汚染物質の種類が異なるため単純比較はできないが、日本の避難指示解除基準である年20ミリシーベルトより厳格だ。マクシム君の家もこうしたエリアに位置するとみられる。

リトアニア国境に近い田園地帯にあるベラルーシ初の原発建設現場
=ベラルーシ北西部オストロベツ郊外で2月17日、いずれも真野森作撮影

避難・移住か、居住するかを選ぶことのできる年間1ミリシーベルト以上の汚染地域でのがん発病について、同研究センターのナディロフ副所長は「遺伝的にがんにかかりやすい人や放射線に敏感な体質の人に関して、放射線が発病を促進する可能性も否定はできない」と慎重な姿勢を示す。

ベラルーシでは、当時の事故処理従事者▽高濃度汚染地域からの強制避難民▽両者のどちらかを親に持つ子供たち▽低濃度汚染地域の住民−−など7類型の80万人以上が台帳に登録され、毎年検査を受けている。

データを管理する同研究センターによると、事故当時に大量の放射線を浴びた事故処理従事者と強制避難民のがん発生率は国内標準より約20%高く、そのほとんどが甲状腺がんだ。また、事故当時に胎児〜18歳だった人たちを一つのグループとしてまとめ、経過観察を続けている。


最新原子炉を導入
のどかな田園地帯を車で進むと、巨大な冷却塔が現れた。

リトアニア国境から約20キロのベラルーシ北西部オストロベツ郊外。2013年から同国初の原発建設工事が続く。11年3月の福島第1原発事故後にロシアと合意を結び、「第3世代プラス」と位置づけられる最新型原子炉の導入を決めた。1号機は18年、2号機は20年に完成予定だ。

ソ連時代に進められていたベラルーシでの原発建設計画はチェルノブイリ原発事故で中止されたが、甚大な被害にもかかわらず、再び原発導入に向けてかじを切った。「我が国にはエネルギー資源がほとんどない。電力供給の95%をロシア産天然ガスによる火力発電に頼り、多角化が必要。原発は経済的だ」。エネルギー省のミハジュク次官は、こう力説する。

「原発城下町」となるオストロベツでは原発や関連産業で働く人々を迎えるために二つの街区が建設された。地元記者は「住民に疑問の声もあったが、小さな町が急発展していくのを見て鎮まった。どのみちベラルーシは周辺国の原発に囲まれている」と言う。

就任から22年目のルカシェンコ大統領による独裁体制の下、巨大プロジェクトに表だって反対する声はほとんど聞こえないが、不安を打ち消すことはできない。「原発は必要だとは思う。でも、この国ではどの家族にもチェルノブイリ事故に関連した悲劇がある」。エネルギー省の中堅幹部がつぶやいた。

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