2016/04/14

【チェルノブイリ30年と福島5年(上)】朽ちた石棺、見えぬ廃炉 30キロ圏なお規制「植物に触るな」

2016年4月14日 産経新聞
http://www.sankei.com/affairs/news/160414/afr1604140002-n1.html

史上最悪の原発事故から今月26日に30年を迎えるチェルノブイリ原発に、ウクライナ政府の許可を得て入った。事故を起こした4号機を覆う「石棺」は老朽化が激しく、新たなシェルターの建設が進んでいる。チェルノブイリの現状から、東京電力福島第1原発の「30年後の姿」を見通せるのか。現地から報告する。

「外に出ないで!」

4号機から数百メートルまで近づき、撮影のため車から降りようとすると、ガイドの女性から制止された。放射線量計を見ると、毎時10マイクロシーベルトを超えている。通常の追加被曝(ひばく)線量年間1ミリシーベルト基準(毎時0・23マイクロシーベルト)からすれば50倍ほど高い。

ふいに既視感に襲われた。定期的に訪れてきた東京電力福島第1原発でも、高線量のため東電の社員から「そこから中に入らないように」と注意されたことが頭をよぎったのだ。

事故から間もなく30年を迎えるチェルノブイリ原発。放射性物質を封じ込めていた「石棺」は見るからに茶色のさびだらけで、どれだけ効果を維持してきただろうか。廃炉がいつ終わるのか計り知れない。

ウクライナ非常事態省によると、石棺は事故後の約200日間で急いでこしらえたものだった。もともと30年の耐久期間で、その内部には約200トンの放射性物質が残る。今では雨や雪水が流れ込み、老朽化に歯止めがかからないという。


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チェルノブイリまでは首都キエフから北に約100キロ。シラカバの森の中を車で走り抜けると、検問所が見える。原発から30キロ圏は「ゾーン」と呼ばれる立ち入り禁止区域で、許可証がなければ入れない。いまだに特別な保険への加入が義務付けられる。10キロ圏にも検問所があり、そこで再び身分確認が必要になった。

ゾーンに入るためには、政府から派遣されたガイドが伴う。「土のある場所は歩かないように」「植物を触ることも禁止します」。ガイドというよりも“監視役”なのだろう。さまざまな注意事項を受けた。

原発内部では1日約4千人の作業員が働いている。高線量の影響で長時間勤務ができないため、15日働くと15日休む。

作業の目下の焦点は、石棺に代わる新シェルターだ。老朽化した石棺をすっぽりと覆い包もうという工事が大詰めを迎えていた。

総工費は15億ユーロ(約2千億円)に上り、日本も含めて40カ国以上から資金を募った。ガイドの説明によると、シェルターができれば内部に遠隔のクレーンを設置して2023年までに石棺を取り除くという。問題はそこからだ。



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チェルノブイリ原発と福島第1原発で共通している最難関の課題がある。溶け落ちた燃料(デブリ)をいかに安全に取り出すか、両方とも道筋がない。

チェルノブイリでは、デブリは建屋の地下などに入り込んで溶岩状の塊になった。その形状から「象の足」と呼ばれている。デブリの取り出し技術もなければ、取り出した後の保管方法も決まっていない。それは福島でも全く同じだ。福島ではデブリがどこにあるのか、その位置すら把握できていない。

では、なぜ福島では石棺が必要なかったのか。チェルノブイリは格納容器すらないタイプの炉だった。一方の福島は炉心溶融(メルトダウン)した3つの炉は損傷しているが、いずれも格納容器の形状が保たれていることが大きな違いだ。

福島の廃炉は、早ければ事故から「30年」が完了の目安になっている。単純には比較できない。だが間近に見たチェルノブイリ原発は、福島の原発がこれから抱える重みを代弁しているように感じた。


チェルノブイリ原発事故 旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発4号機(出力100万キロワット)で1986年4月26日に起きた事故。保守点検のため前日から原子炉の停止作業を行っていたところ、出力が急上昇し、作業員のミスも重なって炉が暴走し爆発した。大規模な放射性物質の放出が続き、高濃度に汚染された地域はウクライナ、ベラルーシ、ロシアの3カ国に及んだ。
【チェルノブイリ(ウクライナ北部)=天野健作】


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