http://www.asahi.com/articles/ASJ414S44J41UGTB00Y.html
東京電力福島第一原発事故から5年余。県内外の生活圏の空間放射線量は、自然減衰や除染の効果で一定の低下を示してきた。しかし、土壌を見ると汚染度の高いホットスポットや「放射線管理区域」相当地点は東日本各地に点在する。「本当に安全なのか」。そんな懸念を抱く市民らが、各地の土壌汚染を自主的に測定する運動を展開、蓄積したデータをインターネット上に公開している。先月末には慶応大学(東京)で報告集会を開いた。
昨年10月、全国組織として立ち上がった「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」(共同代表=阿部浩美・ふくしま30年プロジェクト理事長ら3人)。これまでに東北・関東・甲信越・東海17都県の生活圏や一般市民が立ち入れる範囲の1900地点以上で、地表から5センチ分の土壌を統一した方法で採取、土壌1キロ当たりの放射能濃度を測定し、ウェブサイト「みんなのデータサイト」にデータを公開してきた。
「地域の平均的汚染度を測る」のが目的で、極端に線量の高い特異点(マイクロホットスポット)などはデータから排除している。石丸偉丈(ひでたけ)事務局長は「特異点で地域全体の汚染度が誤解されるのは防ぎたい。統一尺度による比較値を参考にすることで、生活上の注意も得られる」という。
これまでの最高値は今年2月に飯舘村比曽の民家近くの林で採取した土壌で、セシウム137が11万1028ベクレル、同134が2万3920ベクレル、計約13万5千ベクレル。静岡県内まで離れると検出限界値以下の地点も増えるが、福島県内はもちろん、今年に入ってからでも関東地方では1万ベクレルを超える汚染地点が散見される。
採取・測定に協力している市民測定所は全国各地の30団体。その中で最も早く2012年5月から測定活動を手がけていたのが、岩手県の市民団体「放射線被曝(ひばく)から子どもを守る会・いわて」だ。原発事故から1年経った2012年春から県内各地の学校や公園を中心に空間線量と土壌汚染を測定、これまでに316地点のデータを蓄積、公開している。
サンプル土壌を採取する講習会の参加者ら =東京都調布市 |
事務局の菅原和博さん(39)は原発事故当時、長女(10)の通う小学校のPTA会長をしていたが、保護者の間で「子どもたちを野外で遊ばせて大丈夫か」が議論になっていた。行政は空間線量から判断して安全だと繰り返すが、チェルノブイリ事故の被災地では土壌汚染度で避難指示が出されている。これを知った菅原さんらは「行政がやらないなら自分たちの手で」と、土壌測定にも取り組むようになった。
「子どもたちは土にふれて遊ぶし、その手で口をぬぐい、風で舞い上がった砂ぼこりも吸ってしまい、内部被曝の心配もある。土壌汚染のデータを知らないと安心できない」と話す。これまでの最高値は、2012年6月に採取した岩手県金ケ崎町の私有地の土壌。地表の線量は毎時0・24マイクロシーベルトだったのに、土は4500ベクレル以上あった。
1検体の測定料は約2千円。プロジェクトではサンプル土壌の測定は無料で受け付け、費用は企業からの補助金や民間からの募金でまかなっている。
しかし、比較データとしては地域的偏りがあり、新潟、栃木、群馬の3県で特にサンプル数が少ない。石丸事務局長は「いずれも農業県。風評被害を嫌ってなかなか協力してもらえない面もある」と話す。一般市民を対象にした採取方法の講習会などを開きながら、「趣旨を理解してほしい」と3県での協力を呼びかけている。
福島県内を中心に土壌汚染の計測・調査を続けてきた今中哲二・京大原子炉実験所研究員は「土壌汚染は地域の汚染レベルを考察する際の基本データなので、できるだけきめ細かく調べる必要がある。本来なら行政の責任でやるべきことだが、プロジェクトの活動に期待したい」と話す。(本田雅和)
〈放射線管理区域〉 原子炉施設や放射線医療施設などで3カ月に1・3ミリシーベルト(年間5ミリ相当)を超える恐れのある区域。立ち入りなどが制限される。
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