2016/04/28

NHK会長 「発表報道」の情けなさ

2016年4月28日 信濃毎日新聞
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160428/KT160427ETI090004000.php 

NHKの今後がますます心配になる。

籾井勝人会長が衆院総務委員会に参考人として呼ばれ、熊本地震に関する局内の会議で原発をめぐる報道は「公式発表をベースに」するよう指示していたことを認めた。

自身の説明によると、公式発表とは気象庁や原子力規制委、九州電力によるものを指す。

発表されたものをそのまま流すだけでは報道機関の責任は果たせない。発表されていない情報を発掘して読者や視聴者に伝えるのがメディアの役割だ。会長の発言は問題が多い。

会長はこんな説明もした。「不必要な混乱を避けるという意味で、根拠もなしに(情報を)出すことはできない」

逆に問いたい。気象庁や規制委、九電の情報だけ伝えていれば、住民は安心できるのか。

福島の原発事故では政府が正しい情報を迅速に伝えなかったために不安と混乱が広がった。緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータの公表が遅れ、避難に生かせなかったのは典型だ。

NHKの取材班は原発事故のあと、ドキュメンタリー番組シリーズ「ネットワークでつくる放射能汚染地図」を放送して反響を呼んだ。市井の老科学者と一緒に放射線量を測定して回り、災害の実態を明らかにした。

高い汚染を知らされないまま避難所に居続ける人たち。餌をやれず3万羽の鶏を餓死させた養鶏農家…。番組は2013年のJCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞を受けている。

会長の指示を厳密に守れば、こうした番組は作れなくなる。職員は映像ジャーナリストとしての力を発揮できなくなる。

2年前の会長就任会見を思い出す。領土問題について「政府が右というものを左というわけにはいかない」。特定秘密保護法について「(法案が)通ってしまったので、もう言ってもしょうがないんじゃないか」。発言が批判を浴びると「個人的見解」だったとして撤回している。

「公式発表をベースに」との今度の指示を見ると、報道機関が政府から距離を置くことの意味が今も分かっていないのではないかとの疑問がわいてくる。

籾井会長の任期は来年1月で切れる。会長を選ぶ権限は、放送法の上では経営委員会がもつ。浜田健一郎委員長ら経営委は、ふさわしい人が次の会長に選ばれるよう環境を整えてもらいたい。

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