2016年5月28日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160528/ddl/k07/040/036000c
東京電力福島第1原発事故による南相馬市の避難指示が7月12日に解除されることが決まった。原発事故から5年4カ月で、居住や新たな住民登録の制限がなくなる。住民の中には、避難先での新生活にかじを切った人も多く、放射線への不安や生活の不便さ、通勤・通学など、さまざまな事情から早期解除への反対は根強い。「7月下旬の相馬野馬追を地域再生の足がかりにしたい」と訴えてきた市が、最後は国と歩調を合わせ、反対意見を押し切る形になった。【大塚卓也】
政府の原子力災害現地対策本部の高木陽介本部長(副経済産業相)と南相馬市の桜井勝延市長は27日、共同記者会見に先立ち、市役所で協議した。国が22日の住民説明会後、目標を維持すると説明した「7月1日」の解除に桜井氏が反対。結局、「12日」に遅らせることで両者が合意した。
政府が原発事故で11市町村に出した避難指示は2014年4月の田村市都路地区を皮切りに、川内村の一部と楢葉町で解除された。来月には、葛尾村、川内村の一部で残る避難指示も解除される。避難者が1万人を超える自治体の解除は、南相馬市が初めてだ。
<右>避難指示解除に理解を求める南相馬市の桜井勝延市長 <左>高木陽介・原子力災害現地対策本部長=南相馬市役所で |
高木氏は、記者会見で「南相馬市の解除は浜通り地域全体の復興の起爆剤になる」と意義を強調。同市に国と県が主導するイノベーション・コースト構想の拠点施設「ロボットテストフィールド」の設置が決まったことを受け、ロボット関連企業の誘致を働きかけ、地元の雇用拡大を後押しする考えを示した。国が、今後も市の復興支援を継続することなどを約束する協定書を近く交わす。
当初、国と市は4月中を解除の目標にしてきた。それが遅れた最大の理由は、解除が先行した他の町村に比べて除染が遅れていたことだ。自宅の除染に同意していない世帯は、まだ数百世帯残っており、農地や道路の除染の終了は来年3月末が目標だ。「農業を再開できなければ生活が成り立たない」と訴える住民が、来年3月以降の帰還を目指す浪江町や飯舘村などとの間で不動産賠償の算定基準などが変わり、格差が出ることに不満を募らせるのも不自然ではない。
桜井市長は会見で、賠償の算定基準については一律にするよう今後も国に求めていく考えを強調。解除日を協議する過程で「(賠償のことを)考慮した」と認めた。
昨年8月から始まった南相馬市の準備宿泊には、現在661世帯1945人が登録している。だが、市の関係者は「避難指示解除の直後に戻る世帯は3分の1程度ではないか」と悲観的だ。住民が戻らない地域をどう維持し、再生させるのか、重い課題が残っている。
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