2016/05/17

核と共存できない 坂本龍一さん伴奏「吉永さんに共感」

2016年5月17日 朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/ASJ4T4GNGJ4TPTIL011.html?_requesturl=articles%2FASJ4T4GNGJ4TPTIL011.html&rm=441

「核と人類は共存できない、という吉永さんの強い信念に共感します。将来、人々が核兵器や原発に苦しまないことを願います」。坂本龍一さんは吉永さんを迎える舞台で、学生らに英語で語りかけた。

坂本さんは約50曲の譜面を携えてバンクーバーへ。ところが「リハーサル中、(吉永さんが朗読会の前半に読む)原爆詩のところで即興をしようという曲が浮かんで」。それは譜面を持ってきていなかったバッハの「コラール」だった。これをもとに急きょ譜面を書き、厳粛な旋律を奏でた。

ピアノで伴奏する坂本龍一さん

後半の福島の詩の朗読では子どもたちの顔が浮かんだ。5年前の震災で楽器が壊されたり、津波で流されたり……。つらい経験を持つ東北の子どもたち103人による「東北ユースオーケストラ」を立ち上げ、指導にあたってきたからだ。

原発事故のあと、放射線との因果関係については見方が分かれているが、福島県では甲状腺がん、あるいはその疑いがあると診断された子どもは167人(福島県民健康調査)。オーケストラメンバーの7割も福島の子どもたちだ。

「『遠い所に避難したほうがいい』と言いたい気持ちはありますが、安易には言えない」。中咽頭(いんとう)がんの闘病を経て3月に子どもたちとの公演を果たした坂本さんは、朗読会のあとに吉永さんと共に応じたインタビューで心境を明かした。

原発事故が起きた2011年に英国で吉永さんと朗読会を開いたが、事故後にあった「日本社会が変わる兆し」が見えなくなったと感じる坂本さん。今回はより切実な気持ちで臨んだという。吉永さんからは「次もご一緒できれば」とお願いされた。「とても大事なことをされている。呼ばれれば、いつでもどこでも馳(は)せ参じます」

■津田塾大とUBC、交流授業

今回の朗読会に先立つ4月26日、津田塾大(東京)の英文学科などの11人とUBC生ら10人が衛星回線で結んだテレビ会議システムで交流授業をした。津田塾大は早川敦子教授と木村朗子教授、UBCはクリスティーナ・ラフィン准教授が担当した。



教材は東日本大震災を経験した55人の短歌をまとめた「変わらない空 泣きながら、笑いながら」(講談社)。津田塾大は被災地出身の学生や福島の詩の英訳に取り組む翻訳コースの学生らが参加し、UBC生と短歌や詩にこめられた意味を語りあった。



《ほだげんちょ、ふくしまの米、桃、りんご、梨、柿、野菜、人も生ぎでる》

この短歌を取りあげた加藤沙織さん(18)=福島市出身=は原発事故時、中学生。出身地を言えば原発が話題になるから隠すようになった。進学で郷里を離れて福島が好きな自分に気がついた。「ほだげんちょ」は福島弁で「そうだけれども」を意味する。「頑張って生きていることは、自ら発信しないと理解してもらえない」。そう思い、交流授業に加わった。

UBC生は原発事故で被災した佐藤紫華子さんの詩を英訳した。フランス人留学生のエルザ・シャネズさん(27)は「翻訳していると『数』ではなく、人々の声が聞こえてくるようでした」と話していた。

朗読会の当日、会場には「第二楽章」の風景画を手がけた男鹿和雄さんの作品が展示された。翌日にはバンクーバー市内で長崎原爆の映画「母と暮(くら)せば」が上映され、主演の吉永さんと音楽を担当した坂本さんがあいさつした。


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