2016/05/24

社説/チェルノブイリ 事故の教訓を忘れるな

2016年5月24日 徳島新聞
http://www.topics.or.jp/editorial/news/2016/05/news_14640515746849.html

原発事故は一度起きれば取り返しがつかない。その思いを胸に刻んだ歳月だった。

旧ソ連・ウクライナで起きたチェルノブイリ原発事故から30年が過ぎた。当時、日本でも甚大な被害をもたらす原発事故が発生すると、どれだけの人が予想しただろう。

しかし、現実に東京電力福島第1原発で事故は起きた。1~3号機は、核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)に陥り、いまだに深刻な状況が続いている。

原子炉の型の違いなどから、日本ではチェルノブイリのような事故は起きない-。そんな電力関係者らの自信に満ちた説明は一体、何だったのか。東電や関係者は改めて反省すべきだ。復旧や被災者の健康のケアの在り方について、チェルノブイリ事故の教訓に学ばなければならない。

「チェルノブイリは平和利用の原子力が時として核兵器と同様の危険性を持つことを見せつけた」。ウクライナ政府主催の追悼式典でポロシェンコ大統領が述べた言葉は、原子力災害の恐ろしさと厄介な特質を表している。

1986年のチェルノブイリ原発事故では、4号機が爆発し、現在のベラルーシやロシア、欧州など広大な地域を放射性物質で汚染する重大な事態を招いた。

一層の拡散を懸念した旧ソ連政府は、4号機をコンクリート製の「石棺」で覆う緊急対策を取ったが、今では老朽化が著しい。

ウクライナ政府は、耐用年数が100年の巨大な金属製シェルターで、石棺を密閉する計画を進めている。それでも、事故の処理には今後、少なくとも数十年を要するとみられる。

最大の問題は、4号機に残った核燃料の処理方法が、決まっていないことだ。

最終的な処理に道筋をつけるのは困難を極める。国際社会が支援の輪を広げ、資金と技術、人材を結集することが重要だ。

原発の周辺からは約33万人が移住させられた。だが、放射線量が高い地域への帰還は極めて難しい。

放射性物質の飛散による健康被害の行方も気掛かりだ。事故から4~5年後に、子どもの甲状腺がんが急増した。国際機関は、原発事故によるがんなどの死者を4千~9千人と推定している。放射性物質の怖さを物語る数字だ。

福島県が、事故当時18歳以下だった子ども全員を対象にした「県民健康調査」では、116人ががんと診断されている。放射線との関係は明らかではないが、チェルノブイリの事例を参考に、対応策を取る必要があろう。

福島の事故処理が難航しているのに、原発再稼働を急ぐ政府の姿勢は容認できない。

地球規模の災害まで考慮すれば、安全が保障される原発などないはずだ。

廃炉を進め、太陽光発電などの再生可能エネルギーを増やしたい。それが事故の教訓を生かすことである。

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