http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20160515-00057693/
環境省は、中間貯蔵施設に保管する高濃度の汚染土などを、「8000ベクレル/kg以下」にして全国の河川堤防や土地造成、道路用盛土などに再利用する戦略を進めている(既報)。
再利用の放射能レベルを環境省が「8000ベクレル/kg以下」としようとしていることについて、GW明け初(5月11日)の定例記者会見で、田中俊一原子力規制委員長は「一般論として見れば、同じ放射能、セシウムならセシウムで汚染されたものが、炉規法の世界と除染特措法(*)の世界で違うということはよくないと思います」との見解を明らかにした。
原子力規制委員会定例会見(2016年5月11日筆者撮影) |
炉規法のクリアランスレベルはセシウム100ベクレル/kg
田中委員長の言う「炉規法」とは「原子炉等規制法」の業界用語で、同法では「クリアランスレベル」つまり「放射線障害の防止のための措置を必要としない」濃度を定めてある。福島第一原発事故前は「原子力安全・保安院」と「経済産業省放射性廃棄物規制課」が、廃炉の手続を検討する中で導入した考えで、以下のように言い表してきた。
原子力施設から生ずる資材について「クリアランスレベル」(人の健康への影響を無視できる放射性核種の濃度)以下であることを国が確認する「クリアランス制度」を導入。(平成17年原子炉等規制法改正(第61条の2等)
事故後は、それを炉規法を所管する原子力規制委員会が受け継ぎ、このクリアランスレベルを確認できる立場である。
そのクリアランスレベルが具体化に記されているのが「製錬事業者等における工場等において用いた資材その他の物に含まれる放射性物質の放射能濃度についての確認等に関する規則」の別表第一で、セシウム(100ベクレル/kg)を含む33の放射線核種について定めている。
つまり、クリアランスレベルとは、管理主体が手放しても大丈夫なレベルという意味で、逆に言えば、「人の健康への影響を無視できる放射性核種の濃度」にならなければ、管理が行き届く範囲から手放してはいけないという考え方である。
田中委員長の言う「炉規法」とは「原子炉等規制法」の業界用語で、同法では「クリアランスレベル」つまり「放射線障害の防止のための措置を必要としない」濃度を定めてある。福島第一原発事故前は「原子力安全・保安院」と「経済産業省放射性廃棄物規制課」が、廃炉の手続を検討する中で導入した考えで、以下のように言い表してきた。
原子力施設から生ずる資材について「クリアランスレベル」(人の健康への影響を無視できる放射性核種の濃度)以下であることを国が確認する「クリアランス制度」を導入。(平成17年原子炉等規制法改正(第61条の2等)
事故後は、それを炉規法を所管する原子力規制委員会が受け継ぎ、このクリアランスレベルを確認できる立場である。
そのクリアランスレベルが具体化に記されているのが「製錬事業者等における工場等において用いた資材その他の物に含まれる放射性物質の放射能濃度についての確認等に関する規則」の別表第一で、セシウム(100ベクレル/kg)を含む33の放射線核種について定めている。
つまり、クリアランスレベルとは、管理主体が手放しても大丈夫なレベルという意味で、逆に言えば、「人の健康への影響を無視できる放射性核種の濃度」にならなければ、管理が行き届く範囲から手放してはいけないという考え方である。
「安全に捨てる基準」が「全国で再利用される濃度」に
ところが、環境省廃棄物・リサイクル対策部は、事故後に成立した除染特措法(*)に基づき、理屈をつけて独自に「廃棄物を安全に処理するための基準」(指定基準)を「8000ベクレル/kg以下」にした。「処理」とは「環境省廃棄物・リサイクル対策部」用語で、「捨てること」を意味する。
今回、環境省が公表したは、その80倍に緩和された「8000ベクレル/kg以下」を「捨てる」のではなく、全国で再利用する濃度にしてしまおうというものだ。
国は県外処分に向けゆっくりとステップを上げている。 (出典:環境省「県外最終処分に向けた取組み」) |
まるで「ぬるま湯に蛙」戦略
この戦略を撤回すべきだとして5月2日に丸川珠代環境大臣宛で署名簿が手渡されたが、この時の環境省との質疑で、最大の論議は以下の問いだった。
原子炉等規制法では、再生利用の基準は放射性セシウムについて「100ベクレル/kg以下」である。環境省による「8000ベクレル/kg以下」はそれに矛盾するのではないか?
この時の環境省の回答は以下のようなものだ。
回答:100ベクレル/kgは、廃棄物をどのような用途で再利用もいいという基準である。8,000ベクレル/kgは、責任主体が明確な公共事業において、管理を行い、覆土などの遮蔽の措置を設けた上での再利用。なお、8,000ベクレル/kgというのは上限の値で、今後用途別に被ばく評価や手法を検討した上で、年1mSvを上回る場合には、より低い上限を設けていく。
(FoE Japan「8000ベクレル除染土を再利用」方針の撤回を求めて…署名提出と政府交渉報告より抜粋)
これに対しては、「大雨、地震や津波などにより」管理しきれるものではないではないかという疑問と共に「崩壊・流出は考慮されているか」と問われ、環境省の回答は「今後、評価する」という行き当たりばったりなものだった。
一連のこの戦略は、環境省の「放射線影響に関する安全性評価ワーキンググループ」で非公開で行われている。これを受けて、5月11日の田中委員長の定例会見で筆者が尋ねたのは、「管理を手放しても大丈夫」という意味でのクリアランスレベルの決定のプロセスである。その答えが冒頭の田中委員長の見解で、プロセスには触れることなく、以下のような回答だった。
Q:環境省の方で、中間貯蔵施設に入れる除染土などの再利用について検討しているみたいなのですが、クリアランスレベルについて、どのようなプロセスで決めていくべきだと委員長はお考えか、お聞かせください。
田中委員長:除染した土壌の話ですか、中間貯蔵というのは。除染については、法律上では特措法で、実はうちの炉規法の世界とはちょっと違う世界になっているのだけれども、一般論として見れば、同じ放射能、セシウムならセシウムで汚染されたものが、炉規法の世界と除染特措法の世界で違うということはよくないと思います。クリアランスという言い方をされるのかどうかわかりませんけれども、そこは細かいことは何も伺っていませんけれども、クリアランスのレベルは決まっているので、そこが基本だと思います。
(2016年5月11日原子力規制委員会記者会見録より抜粋)
環境省が進めようとしている戦略はその「基本」から外れたものであり、段階を得て、全国民に対し、許容させる濃度を上げていっている。
1段階目は、セシウムの「クリアランスレベル」100ベクレル/kgを、「捨てるための指定基準、8000ベクレル/kg」と言い換えて、80倍に上げた。
2段階目は、河川堤防や土地造成、道路用盛土などで再利用できる濃度として8000ベクレル/kg以下とした。しかも全国展開である。さらに言えば、セシウムについて検討しているだけで、他の31核種についての濃度は検討すらしていない。
まるで、ぬるま湯に蛙を入れて熱するような戦略ではないか。
(*)平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法
まさのあつこジャーナリスト
ジャーナリスト。1993~1994年にラテン諸国放浪中に日本社会の脆弱さに目を向け、帰国後に奮起。衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。著書に「四大公害病-水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害」(中公新書、2013年)、「水資源開発促進法 立法と公共事業」(築地書館、2012年)など。
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