2016/05/24

福島・南相馬の住民説明会 避難指示解除「7月1日」の政府方針に反対続出

2016年5月24日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2016052402000138.html

福島第一原発事故で避難指示が出ている福島県南相馬市で二十二日、「七月一日」をめどに指示解除を目指す政府案の住民説明会が開かれた。これが最後の説明会とされたが、住民からは「時期尚早」とする意見が続出。「解除を急ぐのは五輪のためか」との不信感も募る。当初予定より二時間も延長しての大議論となった会場では、住民を無視して進む国の帰還政策への不満が噴出した。 (白名正和)
「準備宿泊」中だが、人通りも往来する車もほとんどないJR小高駅前の住宅街
=22日、福島県南相馬市小高区で

政府の原子力災害現地対策本部は十三日に南相馬市議会で、七月一日の解除方針を表明。十五日から住民説明会を開いてきた。対象は、居住制限区域と避難指示解除準備区域にある三千五百世帯の一万一千人。最終日の二十二日は、市内でも放射線量の高い小高区西部の住民が集まった。

政府の担当者は、昨年度までに両区域で除染対象となっている宅地の約九割で除染を終え、年間被ばく量が二〇ミリシーベルト以下になったと説明。「除染が完了した」と話した。

しかし、納得する市民は少ない。説明会では「自宅の周りには放射線量が(毎時)六・四七マイクロシーベルトの場所もある」と政府の説明を大幅に上回ると訴える声や「なんでこんなに解除を急ぐのか」と憤る声が相次いだ。政府側は「線量が高い地点があれば継続して、フォローアップ除染(追加の除染)を続けていく」と答えたが、参加者は「だったらそれが終わった後で、安全だと住民も同意した上で、解除すればいい」と切り返して現段階での解除に反対した。

別の参加者も「うちはまだ(除染が)終わっていない。近くの道路ののり面も、除染は一度もやっていない。これで除染が終わったことになるのか」といぶかる。

政府側は「フォローアップ除染」をすると繰り返した。参加者のうち元高校教諭の二本松義公さん(63)が「フォローアップ除染は何マイクロシーベルト以上が対象になるのか」とただすと、政府側は「(数値が)いくつであれば、というのではなく家の中の状況を見ながらする」と判然としない答弁にとどまった。

二本松さんがさらに「判断基準もないのに除染の対象をどう決めるのか。数値がないと納得できない」と畳み掛けても、政府側は「できる限り線量を下げたい」とはぐらかした。

南相馬市内の知人宅に長期避難している二本松さんは「避難指示が解除されれば小高区に戻りたいが、解除後の対応が全然見えない。数値目標を示したり、納得いくまで除染すると言えばいいのに、それもない。あまりにも無責任だ」と憤る。

政府側が提示した資料に、区域内に一時的に戻った住民の被ばく量が平均年一・三六ミリシーベルト、高い人で年三・九六ミリシーベルトになるとする推計データもあり、女性参加者が「(公衆の被ばく限度の)年一ミリシーベルトを超えている」と指摘した。

政府側は「年一ミリシーベルトは長期的に目指していく目標」とするのみで、いつまでに達成したいのかも明示しなかった。女性の参加者が「市も国も解除を急ぎすぎていて、不信感を抱かざるをえない」と批判すると、会場から大きな拍手が起きた。

説明会があった小高区では、老人福祉センターが昨年四月から風呂や休憩所のサービスを始め、仮設商店も一店舗が開業している。国は「生活サービスの復旧は進んでいる」と強調するが、避難指示区域内の自宅に滞在できる「準備宿泊」の登録者は対象者の二割弱にとどまる。

福島県伊達市の借り上げ住宅に避難し、妻と二人暮らしという男性(71)は「仮設店舗は小さすぎて品ぞろえも限られる。生活環境が整っていないから、帰るに帰れない」とこぼす。「説明会に来たのも五十~七十代がほとんど。若者がいない。もう帰るのをあきらめて、別の場所で暮らしを築いているんだろう」と嘆く。

政府が示す「七月一日」案に、桜井勝延市長は説明会で「皆さんの意見を聞いて判断したい」と語った一方で「百パーセントの(除染の)完了を待っていては、いつになるか分からない」とも述べた。桜井市長は「(説明会はこれ以上)やらない」と明言し、解除の時期を巡り政府側と二十七日に協議すると記者団に答えた。

避難指示が解除された地区に戻りたくない人は避難を続ける選択もあるというのが政府側の説明だが、居住制限区域がある市内の川房地区で地区長を務める佐藤定男さん(60)は「帰りたい人だけ帰るのであれば、現在の準備宿泊制度のままでいいはず。無用な健康被害を招く恐れがあるところに焦って帰す必要はない」と危ぶむ。地区の住民も八~九割が解除に反対という。

説明会が終わっても、住民たちが政府側の担当者に質問をぶつけていた。「東京五輪で復興をPRするために解除を急いでいるんじゃないのか」と疑う女性も。あいまいな笑顔で聞く担当者の前で、別の女性は「避難指示が解除されたら、除染のことも被害のことも忘れられるんだ。絶対に」と怒りをにじませた。
(白名正和)

<避難指示区域>帰還困難区域(年間被ばく線量50ミリシーベルト超)、居住制限区域(20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下)、避難指示解除準備区域(20ミリシーベルト以下)の3区域がある。2014年4月以降、福島県の田村市、川内村の一部、楢葉町で解除された。政府は帰還困難区域以外の2区域について、来年3月までに解除を目指す方針で、来月12日に葛尾村、同14日に川内村をそれぞれ解除すると両村に伝えている。

◆被ばく線量、二重基準
福島原発事故での年間被ばく線量について、政府は「二〇ミリシーベルト」で対策の線引きをする。それ以下なら「健康リスクは低い」という立場で、避難指示解除の要件に設定しているが、平時の公衆被ばくの上限は年一ミリシーベルト。この二重基準に反発は根強い。

南相馬市では、三つの避難指示区域に加え、局所的に放射線量が年二〇ミリシーベルトを超えると推定される「特定避難勧奨地点」もあったが、二〇一四年十二月に「除染で線量は下がった」としてすべて解除となった。

これに怒った市民らが一五年四月、「国は被ばく線量を年一ミリシーベルト以下とする法的義務に反し、一ミリシーベルトを超える被ばくを強いている」と解除取り消しを求め東京地裁に提訴した。

政府の根拠は、事故前に国際放射線防護委員会(ICRP)が出していた勧告。原発事故から復旧する際の参考値として「年一~二〇ミリシーベルト」を提唱している。

だが、解除取り消し訴訟の原告弁護団の福田健治弁護士は「国はICRPの参考値の中で、最も緩い数値を意図的に採用した。その数値をよりどころに、住民の意向を無視して解除を進めている」と憤る。

国際環境非政府組織「FoE Japan」(東京)の満田夏花理事も「必要のない人の立ち入りが禁止される『放射線管理区域』でも年約五ミリシーベルト。そう考えると年二〇ミリシーベルトという基準は高すぎる。外遊びする子どもへの影響が特に心配だ。十分な議論がないまま、本来厳重な管理が必要な区域に帰そうとするのは許されない」と批判している。
(池田悌一)


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