2015/08/01

東電元幹部強制起訴へ/事故責任の明確化が民意だ

2015年8月1日 河北新報・社説
http://www.kahoku.co.jp/editorial/20150801_01.html

責任をうやむやにしたままでは、犠牲者や避難者の無念は晴らせない。何よりも、原発事故の失態が繰り返されてしまうのではないか。

福島第1原発事故について国民の多くが抱く素朴な思いと危機意識が、順当に反映された判断と言えるだろう。

福島事故をめぐり業務上過失致死傷罪で告訴・告発され、東京地検が2度不起訴とした東京電力の勝俣恒久元会長ら元幹部3人について、検察審査会が「起訴すべきだ」との議決を下した。

これから強制起訴の手続きが取られ、3人は刑事被告人として法廷の場で刑事責任が追及されることになる。

強制起訴につながる議決は当初から想定された展開であり、司法手続きの一つの通過点と冷静に受け止める向きもあるが、市民感覚を生かす趣旨の検審制度によって、2度にわたり刑事責任追及を求める議決が下された意味を過小評価してはならない。

空前の過酷事故はなぜ起きたのか。当時の経営トップは本当に事故を防ぐ対策を取ることはできなかったのか。

民意が求めているのは、あくまで事前の津波対策を中心にした事故原因の徹底解明と責任の明確化である。そのことをはっきりと示した点で検審議決の意義は大きい。

災害や大事故に関して個人の刑事責任を問うことは一般的に困難とされている。同じように歴代社長3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴された尼崎JR脱線事故の裁判では、一審と二審ともに無罪判決が出ている。

東電元幹部の捜査でも、検察当局は刑事責任を問う上で要件になる予見可能性と結果回避可能性について、3人の直接的な関わりを具体的に立証することは困難として、不起訴の結論に至った。

プロの結論を覆すような新証拠がない中で、強制起訴を可能にする検審制度の在り方には「道義的責任と刑事責任を混同している」と疑問の声もあるが、深刻な被害が続く結果の重大性に照らせば、それが広く受け入れられる感覚ではないことも確かだ。

2008年に社内で「最大15.7メートルの津波が来て、4号機の原子炉周辺は2.6メートル浸水する」という予測を立てていながら、対策に生かさなかった東電の企業体質を国民は注視している。

やるべきことをやっていれば事故は十分に回避できたのに、目をつぶって無視していたのに等しい状況だった、という議決の厳しい指摘に共感する国民は多いだろう。

強制起訴後の裁判が3人の刑事責任とともに、事故を防げなかった東電組織の実態に迫り、経営トップの安全軽視の姿勢を検証する場となることを期待する。

九州電力川内原発1号機(鹿児島県)を先頭に再稼働の動きが加速し、福島事故の風化も懸念される中で、今回の議決が下されたことも重く受け止める必要がある。

事故原因と責任の所在を明確にすることなしに、教訓に基づいた事故対策の確立はあり得ない。

福島事故の原点に立ち返ることの大切さをあらためて、この機会にかみしめたい。


 

東電元幹部強制起訴へ 市民の力 扉開いた

2015年08月01日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015080102000119.html
 福島県南相馬市から避難した山田俊子さん=7月13日、東京・霞が関の東京地裁前で
閉じかけていた司法の扉を、市民が開いた。未曽有の被害をもたらした東京電力福島第一原発事故から四年四カ月。三十一日に検察審査会が公表した議決に基づき、東電の歴代経営陣三人が強制起訴され、刑事責任を追及する裁判が開かれることが決まった。福島県内をはじめ各地では今もなお、十一万人が避難生活を続ける。この日を待ち望んだ人々は喜びの声を上げ、法廷で事故の真相が語られることを期待する。(加藤益丈、中山岳、大野孝志)

「絶対に起こしてはいけない事故を起こしたのに、誰も責任を問われないのはおかしい。起訴議決は市民の良識の表れだ」

原発事故で福島県南相馬市の自宅を追われ、神奈川県愛川町で避難生活を続ける山田俊子さん(74)は、この日の起訴議決を、たまたま用事で戻っていた自宅のテレビで知った。

自然に囲まれた生活を送りたいと二〇〇七年四月、東京都町田市から、夫(66)の故郷である福島に移住した。鍼灸(しんきゅう)の仕事を始めた夫を手伝い、キュウリやトマト、アスパラガスなどの家庭菜園に精を出した。近くの山でくんだ水でそばを打ったり、コーヒーをいれたり。毎日が充実していた。

そんな生活は、一一年三月の福島第一原発事故で一変した。原発から二十四キロにあった自宅は「緊急時避難準備区域」というおどろおどろしい名前の場所に指定され、町田市に近い愛川町に逃れた。

半年後に同区域は解除され法的には帰れるようになったが、周辺の放射線量は高いままだ。自宅に戻ることで「将来ある子どもの帰還を後押しするような既成事実にされたくない」と、避難生活を続けることに決め、反原発のデモや集会に足を運び、福島原発告訴団に加わった。

東電の旧経営陣三人は強制起訴され、事故の原因や責任の所在が初めて、司法の場で検証される。「責任追及をしてこなかったことが、ズルズルと原発再稼働に向かう原因になっている。無責任は許されないことを示す裁判にしてほしい」。自らも裁判を見届けるつもりだ。

同様に各地で避難生活を強いられている福島の人たちからも、旧経営陣らの責任が明らかになることへの期待が聞かれた。

「どれだけの人が避難中に亡くなり、自殺し、苦しい思いをしたか。元幹部たちに法廷で理解させ、裁いてほしい」。福島県大熊町から会津若松市の仮設住宅に避難している木幡(こわた)ますみさん(59)は被災者たちの思いを代弁し、「起訴の議決は当然」ときっぱり語った。「そして原発の危険を、再稼働を狙う人たちに気付かせてほしい」

体が不自由な長男(37)を連れて同県富岡町からいわき市に避難中の坂本正一郎さん(67)は「東電は『想定外』で逃れようとしているが、対策を怠った責任を認めるべきだ」と話す。「法廷で謝罪し、避難した全員を救済すると明言してほしい」と望むが、事故から四年以上が過ぎてからの起訴議決には、「司法の動きが遅い」とも。

同じくいわき市に避難している横山正さん(75)は「東電の元幹部たちは原発の危険に目をつぶっていた」と考えている。仮設住宅を出られる見通しはなく、「なぜ、私の家や土地を奪われなければならなかったのか。裁判で明らかにしてほしい」と訴えた。
 


 【千葉】「遅すぎるくらいだ」 県内避難の集団訴訟原告ら

2015年8月1日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/chiba/20150801/CK2015080102000147.html

東京電力福島第一原発事故をめぐり、勝俣恒久元会長ら東電の元幹部が強制起訴される見通しとなり、刑事責任が問われることとなった。福島県内から県内へ避難し、千葉地裁に国と東電に損害賠償を求める集団訴訟を起こした六十七人の原告らからは「起訴は当然、遅すぎるくらいだ」と声が上がった。 (柚木まり)

千葉地裁では今年一月、各地の集団訴訟に先駆けて原告が証人に立つ本人尋問が始まり、今も審理が続けられている。

福島県浪江町から娘の住む鎌ケ谷市内へ一時避難を余儀なくされた原告の男性(85)=横浜市=は、「東電幹部が『安全安心』と言いながら、津波対策をしなかったことが原発事故の最大の原因。当然、刑事責任を取るべきだ」と語った。

民事の集団訴訟においても、やはり地震や津波の予見可能性があったかどうかが争点となっている。今月、千葉地裁で開かれた集団訴訟の証人尋問では、原告側の証人として出廷した地震学者で元原子力規制委員長代理の島崎邦彦氏が「津波が来ることは分かっていた」と証言している。

集団訴訟の事務局長を務める滝沢信弁護士は「検察が不起訴とした判断に対して、大きな疑問が残ると国民が判断した結果だ」と検察審査会の決定を評価。その上で、「民事訴訟では証拠提出の強制力が無いが、刑事訴訟で有力な証拠が出てくる可能性がある。社会的にも法的にも、民事訴訟へ与える影響は大きいだろう」と期待を込めた。

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