2016/05/07

(社説)チェルノブイリ30年


2016年5月7日 宮崎日日新聞
http://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_19035.html

◆過酷事故の重い教訓生かせ◆

旧ソ連・ウクライナのチェルノブイリ原発事故から30年たった。4号機が試験運転中に爆発し広範囲が汚染され、消火に当たるなどした数十人が急性放射線障害で死亡。約33万人が移住させられた。

廃炉作業や被災者の苦しみはいまだに続いている。長期的な被災者支援など、東京電力福島第1原発事故という過酷事故を起こした日本が学ぶべきことは多い。さらに、事故が起きれば甚大な被害をもたらす原発に依存し続けていいのか、国民的な議論が求められる。

◆封じ込め作業が今も

チェルノブイリの原発周辺では、甲状腺がんの増加が指摘されている。また放射性物質を封じ込める作業が今も続く。原子炉を覆うため事故直後に建造されたコンクリート製の「石棺」は老朽化が著しいため、巨大な金属製シェルターを造って4号機を石棺ごと密閉。数十年かけて解体する計画だ。

このように、原発は過酷事故が起きればその収束まで何十年にもわたる長期的な努力が必要だという事実を、チェルノブイリは日本をはじめ世界に教えている。

そのチェルノブイリ事故以外で唯一、原発事故の深刻度を示す国際評価尺度で最悪の「レベル7」とされる事故を経験したのが日本だ。大勢の人々が故郷や平穏な生活を奪われ、いつ終わるとも分からない廃炉と除染作業が続く今、チェルノブイリから学ぶことは少なくないはずなのだが、この5年、政府や原子力関係者が謙虚にその努力をしてきたとは言えない。

「同じレベル7でも放出された放射性物質の量は約1割にすぎない」など、両者の違いを強調する見解ばかりが聞こえてくる。

何より重要なのは被災者への補償と支援だ。子どもの甲状腺がんを含めた健康状態のフォローや、個々の事情に応じたきめ細かな生活再建への長期的支援が続けられる体制の整備が求められる。

◆脱原発の道探りたい

この点では、事故から5年後の「チェルノブイリ法」の施行などウクライナ政府の取り組みが参考になる。

同法は「住民に年間1ミリシーベルトを超える追加被ばくをもたらし、対策が必要な地域」と被災地や被災者の定義を明確にして補償の権利を認めた。

事故当時に生まれた子どもを最も影響を受けやすい人々と位置づけ。被ばく以外の影響まで含めた長期的フォローのため、被災者の国家登録制度も導入されている。

また再度考えなければならないのは、原発事故は一人一人の暮らし、一国の財政、社会、経済全体に取り返しのつかない被害を与えるということだ。

政府は原発再稼働を進めているが、熊本地震があらためて示しているように日本は地震大国であることを忘れるわけにはいかない。再生可能エネルギー技術も向上してきている。リスクもコストも高い原子力エネルギーへの依存度を減らし、脱原発の道を探るべきだ。

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